学びと共有の機会に感謝して
2025年度日本心理臨床学会 自主シンポジウムに参加させていただきました。
「コミュニティ・レジリエンシー・モデル(以下、コレモ)」という心と体のセルフケア手法に関する研修会が開催され、話題提供者の一人として参加させていただきました。
学校、企業、被害者支援、医療、集団ケアなど、様々な分野の第一線で活躍される専門家の皆様から、コレモの持つ豊かな可能性を学ぶ、またとない機会となりました。
私自身、日々の臨床で心と体の繋がりの不思議さ、力強さに触れていますが、その探求を共にできる仲間がいることの心強さを改めて感じた一日でした。
この貴重な学びを、この記事を通じてクライアントの皆様とも共有し、皆様がご自身の毎日をより穏やかに過ごすためのヒントをお届けできればと考えています。
- 「頭では分かっているのに、体がドキドキして話せなくなってしまう」
- 「些細なことでカッとなったり、ひどく落ち込んだりすることがある」
もし、このような経験に心当たりがあるとしたら。この記事の中に、ご自身の心と体の繋がりを、少しだけ優しく整えるためのヒントが見つかるかもしれません。
心と体を整えるための知恵『コレモ』とは?
多くの方が抱える「心の不調」は、意志の弱さや性格の問題ではなく、私たちの体がもつ自然な「ストレス反応」の現れであることが少なくありません。
この視点を持つことは、自分を不必要に責める気持ちを和らげ、自分自身をケアするための大切な第一歩となります。
今回の研修会で改めてその重要性を学びました。
「大丈夫ゾーン」という”物差し”
『コレモ』では、私たちが心穏やかに、いつもの自分でいられる状態を
「大丈夫ゾーン(レジリエンスゾーン)」
と呼びます。
これは、ストレスが全くない完璧な状態を目指すものではありません。
むしろ、「少し不安だけれど、大丈夫」「疲れているけれど、なんとかなる」というように、日々の様々なストレスに圧倒されずに対処できる、しなやかな心身の状態を指します。
この状態は、私たちの体を「動く!」モードにする交感神経系と、「休む」モードにする副交感神経系という、二つの自律神経系のバランスによって保たれています。
研修会で先生方が言葉を変えて共通してお伝えくださったメッセージの一つに、以下のことがあったと私は感じました。
「症状は、ストレスに対する生理的な反応であり、人格の問題ではない」
不調を感じた時に、「自分が弱いからだ」と責めるのではなく、「今は体がストレスに反応しているんだな」と客観的に捉えること。
この”物差し”を持つこと自体が、自分への信頼を取り戻す大きな支えとなるのです。
私の実践報告から:『コレモ』の活用
理論を学ぶだけでなく、それを実際の場でどう活かしているのか。
クライアントさんの「こんなことで困っている」という切実な声から、『コレモ』を取り入れています。
あなたが主役
目的は、シンプルです。
「大丈夫ゾーンについて学び、体感し、日常生活で使える健康法を体験する」 こと。
そして、私が何よりも大切にしているのは、相談者さんの主体性です。
「今日は他のことをしたい気分」「今はちょっと休憩しようかな」「コレモをしてみようかな」といったように、その日の自分に合うものを自由に選択できること。
そして、「NO!と言える」選択肢が尊重されること。
無理強いのない安全な場で、安心して自分と向き合う時間を過ごしていただくことを、大切にしています。
日常で使える「6つの健康法」
心と体のバランスを取り戻すための健康法を、取り入れています。
- トラッキング:『今、ここ』の体の感覚を優しく観察し、自分の神経系がどんな状態にあるかに気づく、すべての基本となるスキルです。
- リソーシング:気分が良くなる、安らぎや力を与えてくれる『宝物(リソース)』に意識を向けるスキルです。それは人、場所、思い出、好きなものなど、何でも構いません。
- グラウンディング:地面や椅子など、体を支えてくれているものとの接点に意識を向け、『今、ここ』に支えられているという安心感を得るスキルです。
- ジェスチャリング:気持ちと結びついている自然な『しぐさ』に気づき、大丈夫ゾーンに戻るのに役立つ、自分らしい落ち着く動きを探します。
- ヘルプ ナウ!:不安やストレスで圧倒されそうになった瞬間に、『今、ここ』の感覚に立ち返るための、具体的な緊急お助け術です。
- シフト&ステイ:不快な感覚に気づいた時、人はそちらに注意を奪われがちです。このスキルは、意図的に少しでも『マシ』か『心地よい』感覚に注意を切り替え、そこにとどまる練習です。
実際に体験された方からは、日々の生活に変化をもたらす、素敵なご報告が届いています。
カウンセリングの場だけでなく、日常のふとした瞬間に使える「お守り」のようなスキルが、少しずつ育まれていくことを願っております。
研修会での新たな学び:各領域に広がる『コレモ』の輪
私にとって、この研修会での皆様のご報告は、深い確信を与えてくれるものでした。
私の実践の場は集団療法の場や、カウンセリングですが、同じ基本理念が、さまざまな現場でクライアントさんの安全な場を作り、力を引き出している。
それは、私たちが皆、同じ人間の神経系の仕組みの上で生きていることの、何よりの証だと感じました。

各先生方から感じさせていただいたことを、全て言葉にすることは今の私には難しいです。
ごくごく一部ですが、私が感じたことを、ご紹介いたします。
例 学校現場で
不登校の生徒を「怠け」や「甘え」と見るのではなく、「大丈夫ゾーンから飛び出してしまっている状態」と捉え直す。
ご一緒した先生のお話では、この共通言語が生まれることで、生徒自身、保護者、そして教員の間に安心感が生まれ、関わり方が大きく変化した様子が報告されました。
生徒が自分の状態を言葉で表現できるようになり、教員も感情的に対応するのではなく、まずは落ち着くための手助けができるようになったそうです。
このように、評価や判断から理解へと視点を転換することは、私も大切にし続けたいと感じます。
例 働く人の支援で
企業のセルフケア研修において、ストレスに関する知識を学ぶだけでなく、『コレモ』を用いて「体に気づく体験」を取り入れる。
ご一緒した先生からは、そうすることで参加者がストレス対処法を「自分ごと」として捉えやすくなる、という報告がありました。
頭で「わかっている」ことと、体で「実感する」ことの繋がりが、セルフケアの定着に不可欠であることが示唆されました。
知識が『自分ごと』になる瞬間に立ち会うことの喜びを、改めて思い出させていただきました。
例 被害者支援の現場で
また、被害者支援の場に携わる他の先生からは、トラウマを抱えた方への支援における『コレモ』の活用が報告されました。
特に印象的だったのは、「スキルを選んでも、選ばなくてもいい」という選択の機会を提供すること自体の重要性です。
事件や事故によって失われがちな「自分でコントロールできる」という感覚を、支援の場で少しずつ取り戻していく。
その体験が、回復への大きな一歩となるのです。
このお話は、真のエンパワメントが、時に『いいえ』と言う選択肢を尊重することから始まるのだと、私に強く教えてくれました。
あなたへ贈りたいこと:カウンセリングで大切にしていること
- 少しだけ、ご自身の「リソース(気分が良くなるもの、好きなもの)」に思いを馳せてみてください。それは温かい飲み物かもしれませんし、好きな音楽、大切な人との思い出、ペットの温もりかもしれません。
- そして、今の自分が「大丈夫ゾーン」のどのあたりにいるかな、と優しく観察してみてください。もしゾーンから少し飛び出ていたとしても、どうか自分を責めないでください。それは、あなたの体が一生懸命、環境に適応しようとしている自然な反応なのです。
カウンセリングの場では、こうした心と体の声に、あなたと一緒に耳を傾けていきます。
そして、あなただけの「大丈夫」な感覚を、焦らず、ゆっくりと育てていくお手伝いができればと願っています。
結び:あたたかな支援の輪が広がり続けますように
この記事を通じてお伝えしたかったのは、『コレモ』が提供するのは単なるテクニックではなく、自分自身を優しく観察し、大切にするための「視点」そのものである、ということです。
今回の研修会を企画・運営してくださった皆様、共に登壇した話題提供者の皆様、そして熱心に耳を傾けてくださった参加者の皆様に、心から感謝申し上げます。
私は、対人支援に携わるすべての方を尊敬しています。
皆様とご縁が結べたこと、大変嬉しく、誇りに思います。
この記事が、これを読んでくださった皆様にとって、ご自身をケアするための「大切なリソース」の一つとなることを、心から願っています。
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